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最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)1430号 判決 1963年10月15日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人亀井正男の上告理由第一点の第一段について。

原判決は、所論解除権行使の理非について首肯し得べき判断を十分示して居る。したがつて、原判決に所論の如き判断遺脱はないから、所論は、採用できない。

同第一点の第二段について。

所論は、被上告人芳教の先代芳水が上告人に無断で本件土地上に家屋を建築することによつて本件土地使用関係が発足したとの原審認定外の事実を前提として、原判決を非難するものであつて、上告適法の理由とならない。

同第一点の第三段について。

所論は、原判決に民法六一二条の解釈適用の誤りがあるというが、原判決は、所論第一審判決引用の理由説示を補足して、更にその挙示の証拠関係によつて認定したところに従い、被上告人藤井芳教の父芳水は寺門の出であつて、被上告人もまた僧職にあるところ、芳水は上告人から借用した本件土地に住居兼説教所として本件建物を建てて住み、芳水死亡後は右被上告人がその跡を継ぎ、同被上告人は昭和二十七、八年頃右建物を本拠として被上告人明芳寺を設立し同寺の住職として引続き家族と共に同所に住んでいることから、宗教法人である被上告人明芳寺が本件土地を使用するに至つたことは否定できないけれども、その使用関係は実質上終始変りがなく、したがつて、仮りに本件賃貸借契約中には被上告人寺の設立が予知し包括されていないとするも、被上告人寺の設立は上告人と被上告人芳教との本件賃貸借関係を断たねばならぬ程に信頼関係を裏切つたものと見るべきでないとし、よつて、上告人主張の解除権は発生しない旨判断して居り、この判断は、首肯できる。

されば原判決に所論の違法がないから、所論は採用できない。

同第一点の第四段について。

所論は、原判決の判断遺脱、判例違背をいうが、論旨指摘の、原判決に示された判断は、前示のとおり首肯できるところであつて、原判決に所論違法違背はない。その余の論旨は、畢竟、原審認定にそわない事実を以て原判決が所論解除権の発生しないことを判示した点を非難するものであつて上告適法の理由とならない。

同第一点の第五段、第六段について。

所論はいずれも、原審認定外の事実を以て原判決を非難するものであつて、上告適法の理由とならない。

同第二点について。

所論は、昭和二四年八月一日から昭和二九年七月末日まで五ケ年間月坪五円の割と約定された本件賃料がその後約定或は増額請求により値上げせられたことにつき主張立証がないとの原判示の違法をいうが、第一審及び原審における所論の如き被上告人の供述、上告人本人尋問結果、書証提出、鑑定申請ならびに結果援用は、いづれも、約定し或は時期金額を明確にして賃料増額請求の意思表示をなしたことの主張とは認め難く、従つて、所論原判示には毫も所論の違法はないから、所論は採用できない。

同第三点について。

原判決は、所論五ケ年の期間賃料値上は許すべきでないとの理由を以て上告人の本件賃料請求を排斥する判示をしていないこと、判文上明瞭であるから、原判決にかかる判示があるとの前提に立つ所論は、すでに前提において、採用できない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 横田正俊)

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